表紙
浄瓶降臨(表 紙)
●じょうへいこうりん
藤本窯2003年夏カタログ/B5判8ページ・モノクロ

 本紙は陶磁器立体サークル「藤本窯」に属する俺が、2003年8月3日、東京ビッグサイトで開催された「ワンダーフェスティバル20[夏]に参加した際、120部を無料配布したカタログのWeb仕様である。
 内容は読んでいただくことして、取材するほどに様々なフィルターを通して作品を楽しむ方法がある……という一端を垣間見る機会になった。
 つーか、どんどん作品から横滑りして調査内容の面白さにからめ取られていったと言う方が正しい。陶磁器の長い歴史もまた、魅力ある物語にあふれている。
なるべくページに沿った記述を心がけているが、フォーマットの違いもありかなり組み替えている。為念。


3P2P
2-3P
藤本窯PRESENTS No.3 『オーバーマン キングゲイナー』(2002)
シベ鉄の壺考
 結論から言うと『オーバーマンキングゲイナー 』7話「鉄道王キッズ・ムント」に登場した「シベ鉄の壺」(仮)は実在する。
 時は中国北宋期(960〜1127)、所は現在の河北省曲陽県、定窯で作られた浄瓶(じょうへい)と呼ばれる仏具に、そのオリジナルを見る事が出来る。日本でいえば平安時代、阿倍晴明が魑魅魍魎とバトルしてた頃だ。
 それは刻花仰覆蓮龍首流浄瓶といい(図2-1)、1969年河北省定県で出土。のちに同時代の龍首流浄瓶のレプリカ(図3-1)が現代において製造されている。
 「シベ鉄の壺」は全体のシルエットを北宋期の龍首流浄瓶から、胴部全体の文様はレプリカを参考にデザインされたと推測する。肩先の龍首型注入口は形状の複雑さから省略されたのだろう。
 北宋は中国の陶磁器史上に置いて隆盛を極めた時代であり、とりわけ白磁といえば宋の定窯ものというくらい定窯白磁は中国陶磁の好事家にとって周知のブランド。(ロボといえばサンライズみたいなものか?)
 つまり、この北宋期定窯の浄瓶は鉄道王の調度品として当然な品であり、スタッフがをこれを配したのも頷ける。採用に至った経緯は知る由もないが、皿や椀より見映えがする陶磁器として選ばれたのではと察する。(次ページへ)


刻花仰覆蓮弁龍首流浄瓶
2-1 刻花仰覆蓮龍首流浄瓶
(北宋前期 高15.8cm:1969年河北省定県出土)●河北省定県博物館 愛すべき小品といった華奢な首、ちょこんと突き出た龍首の注入口。現代の生活でどう用いたらいいのか?あ、仏具なんだからお供えに使えばいいのか。ってどう使うのだろう?

マップ
定窯と藤本窯の位置関係
定窯は北京から南西に下ること約200kmの地にあった北宋を代表する名窯。藤本窯の本部は地図のあたりにあるが、窯は最初から無い。


刻花仰覆蓮弁龍首流浄瓶レプリカ
3-1 刻花仰覆蓮弁龍首流浄瓶
(北宋前期同式瓶のレプリカ)現代 高26.0cm 口径2.5cmなぜ2-1の龍首流浄瓶を複製しなかったのか?プロポーションは断然そっちの方がいいのになぁ……


シベ鉄の壺構成図
シベ鉄の壺は設定画を入手していないので、ビデオ画像を元に描き起こしたもの。若干の狂いはご容赦願を。力と技の風車が回ってV3が誕生したようなものか?

図1 図2 図3
(1)刻花仰覆蓮弁龍首流浄瓶(レプリカ)から文様を融合プラス
(2)刻花仰覆蓮龍首流浄瓶からプロポーションを融合=完成(右図)


壺と瓶のちがい 佐賀県立九州陶磁文化館の案内板より。
      形 態              機 能           構成要素
壺(つぼ)
 体が丸くふくらみ、口がすぼまった器  いれる。たくわえる      底+胴+頸+口
瓶(びん) 頸が壺より細長く、口が小さな器    いれる。たくわえる。そそぐ  底+胴+頸+口


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 (前ページより)手前味噌だが、こうして立体化の運びとなった事をみてもスタッフの選択は的確だったのだ。スタッフを代表する富野悠由季監督に記して感謝したい。

“富野監督、ありがと〜!”
 今回藤本窯が出品する「シベ鉄の壺」は、省略されたと判断して肩先の注入口を再現。(この良否は来場者諸兄のご意見を伺いたい所である)十世紀の時を経て、このヤーパンの地で再生されるとは海原雄山もご存じあるまい。是非陶磁器マニアにも見ていただきたいものである。
 『オーバーマン キングゲイナー 』、テレビアニメ史において実在の陶磁器を扱った番組としても記憶するべき作品だというのか? 君は!(世紀単位のスケールに比べれば二十有余年など誤差にもなるまい……と独り言)

 ここからは私事になる。今回の活動がなければ“アニメに出てくる焼き物なんて、画面上の創作だろ。専門家から見れば歯牙にもかけられまい”とゆー偏向した考えに捉えられたままだった。
 この心象を支える根っこには、美術・骨董品についてくるアートな装いを表現出来るものかいという差別心がある。(自身にその芸術性なり価値を見いだす、目利きの能力もないのに)

 そこで邪推なのだが、「シベ鉄の壺」の登場は、それが実在しているにも関わらずアニメだからという色眼鏡と、知識の研鑽に怠惰なまま作品をネタに論じる輩の浅学ぶりを炙りだす、監督の仕掛けたトラップなのだ。(監督の“インテリジェンスを磨け”という定番フレーズが想起される)(次ページへ)


北宋浄瓶部隊型録
いずれ劣らぬ古器(うつわ)者 河北省定県博物館……一度行ってみたいものである。

4-14-24-35-15-2

4-1 龍首流浄瓶(北宋前期 高32.2cm 胴経23.0cm)●河北省定県博物館
文様の有無を除けば前ページの龍首流浄瓶と同じデザイン。サイズは二回りほど大きい。藤本窯産シベ鉄の壺はこのサイズを基本に作られているのだ。
4-2 「官」字款蓮紋浄瓶(北宋前期 高30.3cm) ●河北省定県博物館
「官」字款は、底の方に官という銘が記されているという意味。漢字表記にフリガナがないのは正確な読み方を知らないからである。嗚呼……
4-3 「官」字款刻花蓮弁紋浄瓶(北宋前期 高31.0cm 口経1.1cm)1969年河北省定県出土 ●河北省定県博物館
宋代定窯白磁の蓮花紋は、地元曲陽で1500年前から行われていた石彫刻から取り入れられたもの。周辺の事象を知らないとモノの成り立ちは判らない。付け焼き刃の限界。
5-1 浄 瓶(北宋前期 高30.6cm 口経1.1cm)1969年河北省定県出土 ●河北省定県博物館
蓋付浄瓶は唐代につくられた銅浄瓶の面影を残していると文献にある。しかし、金属器浄瓶の図版は発見出来なかった。申し訳ない。
5-2 「官」字款小浄瓶(北宋前期 高18.5cm) ●河北省定県博物館

5-3 5-4
5-3 白磁浄瓶(唐代)
5-4 仙盞形水瓶(平安時代)
 元をただせば浄瓶という容器、原型担当のふじぽた先生には既知の品であり、放映前からその存在を知っていたのである。陶都有田の現役陶磁器業界人であり、地元にある佐賀県立九州陶磁文化館の収蔵図書も周知であった。まさに地の利。この前提なくばどうなっていた事やら……
 思うに、今回の製作はアニメアイテムのスケールモデル化という主軸とは別に、大陸から日本へというセラミック・ロードの再現をも果たす行為ではなかっただろうか?(大きく出たな)

金属器浄瓶とは、どんなモノだったのかぁ?
 浄瓶の形状は唐代の金属器浄瓶をベースにしたという。浄瓶ではないが、シルエットは唐代の白磁浄瓶に相似の[仙盞形水瓶(せんざんがたすいびょう)東京国立博物館蔵]と唐代の白磁浄瓶をあげておく。説明には響銅(銅・錫・鉛合金)製の金属器水瓶とあった。※金属器浄瓶について言及できる方がおられればご教示ください。



6-7P
(前ページより) 送り手は、受け手に切り売りできるだけの情報を作品に盛っている。実車や実銃が作中に登場すれば格好の会話ネタにされると同じく、他ジャンルのメぇーニアの方が同作品を見た時には別の情報を見い出すに違いない。

 わずか10秒足らずの登場でしかない「シベ鉄の壺」が、秒数以上の情報を含んでいる事を理解すれば、あだや疎かに作品を見る事もなく、望外の喜びを得る“発見と出会い”を生むやしれんですよ。(文責:POOPERA)

※作品の内容・展開とはまったく関係ない話で、オリジナルのデザインでなくば創作ではないとゆー事を言ってるのではない。誤解なきように。為念……

6-1
参考文献・施設(サイトも含む)※図版は末尾No.を参照のこと
・『art japanesque[日本の美と文化](全18巻)第四巻 神々と仏』(講談社)
・『中国陶瓷全集9—定窯—』(上海人民美術出版社+美乃美)…2-1,3-1,4-1〜3,5-1〜2
・『中国美術全集2 陶磁』(京都書院)…6-1
・『中国古陶磁入門』(中島誠之助:平凡社)
・『中国・美の名宝2』(日本放送出版協会・上海人民美術出版社)…5-3
・『平凡社陶磁大系37 白磁』(平凡社)…6-1
・佐賀県立九州陶磁文化館
・東京国立博物館…5-4
・RAID PLUS(サイト閉鎖)
&もろもろの陶磁器関連サイト

いますぐ書店で確認できそうな関係文献(福岡の紀伊国屋書店で確認)
・平凡社版『中国の陶磁5 白磁』(平凡社)…2-1

テキスト作成の参考書
・ロトさんの本Vol.3『氷川竜介流文章術秘伝書』(氷川竜介:個人誌)

6-1 白磁劃花牡丹唐草文龍口浄瓶
(995年定窯 高60.7cm:河北省定県浄衆院塔基出土)


 という訳で、藤本窯第3弾はアニメアイテムだか古陶器のレプリカだか判らないが、いいものには違いない!よね。刮目して見られよ。

壺原型
画像キャプ
シベ鉄の壺
『オーバーマン・キングゲイナー』より(原型製作:P藤本)
 写真はワンフェス申請時のもので、胴部へのモールドは入っていない。龍の首が反りすぎなのは、窯焼きの際、自然と下がってくるので事前に上げているため。最終的な仕上がりは是非その目で確かめていただきたい。そもそも壺って言ってるが、劇中で一言も触れられてる訳じゃないんだよなぁ……
※ワンフェス参加時には左図の原型を展示できたが、カタログ製作時は途上の画像を使用していた。Webなんで以下はカラー画像で紹介。(ブツ撮りしてるんで)


裏表紙
8P
藤本窯型録
Fujimotogama in WonderFestival 2003[Summer]
その他のラインアップ
 ガミラス本星に行ってもお目にかかれない、メイド・イン地球の陶製アイテムをご覧あれ。変なのもあるけど〜

総統グラス ガス生命体グラス 遊星ランプ
(左より)
総統グラス Ver.3『宇宙戦艦ヤマト』より(原型製作:P藤本)
基本色:灰緑色 原材料:天草陶土特上、磁器釉等 内容量:450cc(カップ部)
 藤本窯の方向性を決めた処女作。毎回、少しづつ肌合いが違うので製作年代の測定も可能ですな。食器と同じ材質なので安心してご利用されたい。

ガス生命体グラス Ver.1『宇宙戦艦ヤマト』より(原型製作:P藤本)
基本色:灰緑色 原材料:天草陶土特上、磁器釉等 内容量:500cc(カップ部)
 2002年にロールアウトした藤本窯第2作。総統グラスと同じく材質だが、飲用にはストローを推奨。直接いくと“いや〜んあふれちゃう〜”の危険大なり。

遊星ランプ『宇宙戦艦ヤマト』より引用(製作:POOPERA)
基本色:赤 原材料:ガシャポンケース、カラーサンド等 電源:3V(単3型電池2本使用)
 陶磁器立体サークルにおける“イレギュラーです。計算にはありません!”モデル。光るという一点にポイントをおいて製作されたマスコットアイテム。いわゆるひとつのオモチャなのだ。

[藤本窯2003年・夏カタログ—浄瓶降臨—]
2003年8月3日発行
●グラス・シベ鉄の壺に関するお問い合わせ→    P(ぽったー)藤本   
●藤本窯の活動に関するお問い合わせ→       DUN(だん)      
●本冊子の内容・遊星ランプに関するお問い合わせ→ POOPERA(ぷうぺら) poopera@tvs12.jp