破綻なき設定よりビジュアルインパクト優位のシルエット。物語を産み出す作家力とカタチを産み出すデザイン力に魅了された星野之宣初期の名作『ブルーシティ』、劇中最も活躍した世界一特異な形状の潜水艦を組み上げてみたい。まぁ夏だし。版権取れなくても自分の机に飾る事はできるんだし。挑戦と銘打ってはいるものの、粘土ペタペタ盛ってれば絵にも描けない平面構成も立体になる事は経験済み。投げ出さなければ成果は残る。かなり分のいい時間投資ではなかろうか。
作品→自分の記憶→脳内変換フィルター→手による再生の先に待つのは青き都市の守護神か? その名を冠した古代魚の如きオデブざかなか? 難局という名の敵が待ち受ける初の海洋メカ製作の明日を待たれよ。(2006.3.20)
半熟なる旅立ち
立体にしようと思い立ったのが05年の10月。06年冬のワンフェス作業に追われ、現実味を帯びたのは今年の3月以降。それまではコスモゼロ製作と同じように、職場や自宅でイメージスケッチを描き散らかしていた。所蔵の単行本が見つからなかったのでずっと記憶で描き続け、今年の2月に再販本を購入して脳内画像を補正する。06.2.23
補正前の純度100%脳内画像。ボテッとしたお腹と長大なセイルくらいしか特長をつかんでいないというていたらく。同じ時間に同じ物を見ても、個々人の記憶は一致しないという見本である。再販本購入後はひたすら原作を見てスケッチを繰り返し、ラインを変えていった。でも基本画力の差がありすぎるので、曲線と直線の織りなすシルエットがどうしても把握できなかった。
06.4.15〜4.17
原型作る時間が迫ってきたので、補正後の描きちらかしの中からピックアップして三面図のベースに使用する。作る行程はコスモゼロと同じだが、プテラスピス号はこの段階でもラインが揃わない。画稿自体に不満はあるものの、アニメやプラモで再現する際の足がかりとして、設定資料にあるコスモゼロの三面図は有効だったのだなと思う。
06.4.17〜4.18
三面図に起こした状態。下腹部のラインがどうしても決まらず。切り出し時のなりゆき任せで調整する事にする。尾の長さも同様。そのまま使うのは平面部の装甲のみ。装甲形状は船体最大の特徴なだけに、この部分の解釈次第でずいぶん印象が変わってしまうだろう。結局原作の前半と後半における描写の折衷案みたいな形状になった(あくまで自己診断)。06.4.19〜4.23
三面図をイラストボードに貼り込み、装甲部分を切り出す。立体は積層で大まかなシルエットを出す。紙ガンド・ロワのおかげで2ミリボードの使い勝手を知ることになったのは収穫。強度や精度よりも切り出しの容易さがなにより魅力的。上部装甲の芯材部分。
側面部の基本パーツ。ラフスケッチを清書した時に取りこぼしたと思い、下腹部と船尾は図面に合わせず目分量で切り抜く。
船体の基本形。手前味噌で恐縮だが、“これでなんとかなる”と思った。魚に見えたから……
上部構造材と船体の補強パーツを組み合わせた状態。全長320ミリ、これを骨組みにして肉付けの工程に移る。
上部装甲にライトモデリングペーストを盛った状態。ヤスリ掛け〜整形用の肉厚はこれで確保する。これを記述している時点で船体の肉付けは終了し、モデリングペーストを乾燥させている状況。
本モデルは原型のための原型で、レジンキャストで複製を取り、それを整形して注型用のベースとする。が、版権申請に提出する写真は果たしてレジンモデルなのか?そんな時間的余裕があるのか?のGW突入である。潜水艦らしく水面下での建造が進行中の次回を待たれよ(2006.4.29記)
本モデルは原型のための原型で、レジンキャストで複製を取り、それを整形して注型用のベースとする。が、版権申請に提出する写真は果たしてレジンモデルなのか?そんな時間的余裕があるのか?のGW突入である。潜水艦らしく水面下での建造が進行中の次回を待たれよ(2006.4.29記)
黄粒教室
骨組みの次は船体の肉付け作業。構造材が紙のため、ファンド粘土だと湿気で反る恐れがある。そこで、会社に死蔵してあった船舶設計に使うというスチロールを1000円で購入。シルエットはこれを削って整えることにする。
ブロック状に切り出したスチロールを紙ボンドで接着し、カッターで荒切りした後ヤスリがけして整形。なでるような力でもザクザク削れるので作業自体は非常に楽だった。この素材でワンオフモデルを作るのなら、船らしく水面に浮くだろう(紙パーツもプラ板に換装して)。もっともそれには熱意がチト足りない。
06.2.24
このスチロール、造形材らしいきめの細かさと削りやすさは気に入ったものの、手でこするだけで削れるやわらか戦車なみの強度と、削るほどに発生する削りカスが室内に飛び散る事となり、あたり一面黄色い粒子でザラザラになってしまった。カップの底に残るココアやカップスープのような残滓感大爆発。次の使用時には対策を考えねばなるまい。ブロック状に切り出したスチロールを紙ボンドで接着し、カッターで荒切りした後ヤスリがけして整形。なでるような力でもザクザク削れるので作業自体は非常に楽だった。この素材でワンオフモデルを作るのなら、船らしく水面に浮くだろう(紙パーツもプラ板に換装して)。もっともそれには熱意がチト足りない。
06.4.25
ほぼ肉付けの終わった状態。おそらく船体中央の側面装甲周辺が、プテラスピス号最大の解釈を要する箇所だと思う。どのようなシルエットをなしているのか、ベタと斜線の中から拾い上げるのは非常に難しく、まさに絵にもできないもどかしさがあった。よってラブタコス製プテラスピス号は、なぞって気持ちのいいラインに削りこめたと思った段階で形状を決定。下腹部から側面装甲へのえぐれ具合は人差し指の判断によるものである。
06.4.26
1ミリのイラストボード製中央装甲板を貼り込み、船体の基本シルエット組み完了。どうみてもお魚だ。つくづく思うのはモデルとなった古代魚プテラスピスの特長を際立たせ、オリジナルのシルエットへとまとめあげた星野デザインの見事さである。「逆シャア」の小説挿絵を見ても、ロボットアニメン十年の蓄積を露ほどに必要としないオリジナリティ。追随するものなき孤高のデザインセンスは、同じく亜流すら産まれない成田亨の造形と相通ずるものがある。単に見識のなさ故の半可通な発言やしれぬ。ただ一つ明言できるのは、発表から30年たっても立体化され続ける魅力があるという事。それはきっとこれからも……
06.4.27
船体と同じ工法でナセル部分も作り、スチロール部分をライトモデリングペーストでコーティング。まるで衣のついた天ぷらみたいだ。これをシリコーンの海に沈めてレジンキャスト製の原型を取り出す準備は完了である。図面引いてこの段階まで約10日。自己最速のペースで進む甲殻機動艦の建造。次回はいよいよ本原型製作篇。だが、何が起きるか判らないのが世の常。巨大シャコに船体をブチ破られる事もあるやしれん。などと版権申請に提出した後でいう台詞じゃねえなという“更新はどうしますか?”“月末ネと言ってやれ”の次回を待たれよ。ホントか?
(2006.5.16記)
レジンだけの建設 チト強引……
プロポーション決定型からレジンキャスト原型への移し換え。工程も最終段階、ゴールデンウィークを使って一気呵成に仕上げたかった……いつも障害となるのは己の怠惰ぶりである。持続力に欠ける根性なし。またもズルズルと版権申請締め切りのデッドラインぎりぎりまでズレ込む、原型製作の日々だった(まるで作業をすべて完了したような口ぶりだ)。06.5.3〜5.5
船体とナセルを粘土に埋め、シリコーン型を作る。予想以上に容積が必要な事が判明するも、買い置きの粘土やゴムは不足気味。必要最小限の埋め厚と以前使ったゴム型を切り刻んで、シリコーンゴムを流し込む。それでも4キロ分の未使用シリコーンゴムを使用しているから原型コストとしては馬鹿にならない。
船体部分のゴム型製作と平行して、推進ノズルの原型製作を始める。当初、ファンド粘土の土台に8枚分の外装板を貼り込んで作ろうとしていたが、表面のモールドは原作にはないし、ヤスリがけしていくうちに面白くなったので一品ものとして削り出す事にする。
06.5.6
ゴム型からプロポーション決定型を外す。外す方向を考えていないため、ムリムリっと中央部を裂いて取り出す。ダボ穴つけるのさえ忘れている間抜けぶり。漏れ出さないよう梱包テープで密閉状態にしたゴム型へレジンキャストを流し込む。
こうして抜きあがったレジンキャスト原型。ズシリと重い400グラムを超す塊。これを磨いて原型とする。モデリングペーストを滑らかに塗っておけば後の作業もロスがはぶけるのに……
こうして抜きあがったレジンキャスト原型。ズシリと重い400グラムを超す塊。これを磨いて原型とする。モデリングペーストを滑らかに塗っておけば後の作業もロスがはぶけるのに……
06.5.9〜5.11
削りだした推進ノズル原型。手作業丸わかりの内側スリットがいと哀れ。これでゴム型を製作、キャストパーツを取り出す。このまま船体にくっつけてもタダの穴なので、推進器風のパーツを奥に入れ込む予定である。原作では描写されていないので“なんかそれらしいのが奥にあるなぁ”と、脳内補完を促せれば本望である。星野デザインの邪魔になるだけやしれんけど……〜06.5.13
磨いて磨いてたどりついた、これがラブタコス製プテラスピス号の原型である。シュノーケルやアンテナ部分はとりあえずの針金差し。正直、原作の雰囲気を特化する方向でなく、平均値なシルエットへ日寄ったと思う。さらした以上コメントは甘んじて受ける所存なので、なんか違うぞコレと思われる向きの方もご指摘いただきたい。30年前の自分がこれを見たら満足するだろうか?イオナイザー・ロケットが暴走でもしない限りは知る由もないが……デブチンになった自分を見て号泣するやしれんなぁ。
06.5.21〜5.25
推進ノズル内のディテールアップパーツ作り。原作には描写のない部分を、星野氏より格段に劣るデザインセンスの人間がそれを補完してどうすんのという声も聞こえそう。ノズルと船体をくっつけた時の間抜けっぷりに目をつぶれず、あえて作って見た次第。推進ノズルパーツ一式
おそらく海水を取りこみ、あーなってこーなって後方に噴出しているのだろうという想定を元に組み上げたのが本パーツ。細かい作業をこなすスキルがないので、同心円状にスリットとドリル溝を彫り込んだだけである。(ディテールアップパーツをはずしても、ノズルと船体の接合には何ら問題はないので、購入された方の判断におまかせしたい)
06.5.27〜6.16
ディスプレイスタンドの製作。板状に延ばしたファンド粘土を折り曲げて乾燥。カチカチになった後で切りカキと表面の整形、丸足とロゴプレートを貼り付け完成。と、思いきやパッケージにパーツ詰める段階で安定の悪さが発覚、8月13日に突貫で追加アダプターを作成して急場をしのぐ(トップ写真に移っているのがスタンドアダプター原型)。
再販時までにはちゃんとしたスタンドに改修しておかねば(初出展で購入された方の分も用意します。もう組み立てられた方がいたら誠に申し訳ありません)。
モールド彫り〜複製まで
船体で唯一のモールド部分は甲板部分のみ。プテラスピス号は船体形状が最大の魅力というのはこの例からもお判りいただけるだろう。ここからは暴論。あの巨大ナセルは両刃の剣で、シルエット上の特徴をなす反面、プテラスピス号のスケールを掴みにくくする要因となっている。暴論終わり(原作に不可欠な部分をタラタラ語っても不毛)。
なのに言及してしまうのは、トップ写真にあるナセルなし状態の原型が存外気に入っているためである。ラフスケッチの際、目玉を書き込んでしまう性癖にフィットする本艦の魚っぽさが際立ってしまうせいだろう。立体にしてこそ生まれる視点を得ただけでも収穫である。
船体は分割したくなかったので一発抜きに。本体重量は400グラムちょい、注型時には5キロ以上になるゴム型、立ててキャストを流すので面倒くさいことしきり。
ディスプレイモデルの塗装はぞんざいすぎて失敗。せめて筆塗りでなく缶スプレーでやれば平滑な塗装面が得られたのにと後悔。透明塗料も艶消しを使用すべきだった。黒曜石でなく練炭の肌合いが似合ったはずだから。
パッケージへの梱包はクリアランスが不足気味。座りの悪さをフルーツキャップで補う無駄さの解消が次回の課題。“レジンキャストフレームのパッケージは後の処分に困るだろう”という、受け手にやさしくない仕様も。
以上でプテラスピス号建造記は終了。画像は2代目ディスプレイモデル(2007年3月6日に差し替え)。艶消しクリアで仕上げたので、前作のギラギラに比べればグッと落ち着いたものになった。
ガンド・ロワ、コスモゼロ、プテラスピス号。ワンフェスに参加するならこれだけは立体化しておきたいという脳内三大モデルもこれで完了。オリジナルへの欲求という玉数はさほどないので、立体との縁がどこまで続くのかは心もとない現状である。
これまでに得た“行動の後にはリアクションがもれなくついてくる”という経験則をよすがに、次のステップへ進もうと思う。(2006.12.9記)