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トゲかけ  正式名称がないので便宜上「松本式突起型棍棒」で版権申請をした本アイテム。松本様式の立体化としては最後の挑戦になる(版権申請する対象もここで打ち止め。歳食ってる割には抱えているモチーフが少ないのだ)。
 さてこの棍棒。氏の作品では60年代から登場する、かなり初期に確立した様式である。松本作品にたびたび登場する棘、あるいは突起をもつ造型(ガミラス星の人工物に最も顕著)の始祖と推察する。これはおそらく甲虫の形状に影響を受けているのではと思う。
 メカニックに適用されれば生物的なフォルムをかもしだし、ただの棒が武器という使用目的をより鮮明にする。そう、突起型棍棒とは使用者を動力源とする松本メカ第1号なのである。
 棍棒とトゲの絶妙なバランスを立体化できるかが今回の肝。自分は松本様式をどれだけ理解しているのか?それはもう“見れば判る”話。出展時すべてが一目瞭然なのである。
ラフスケッチ〜原図
スケッチ 07.8.18〜10.17のスケッチ
 まず最初に頭の記憶を描きだし原典で確認、補正を加えつつ原型のシルエットを出すこれまでやり方を踏襲。夏のWF終わってスグに始めてるのは最速の取り掛かりである(とは言っても粘土さわったのは10月中旬だからさほど意味がない)。
 原典での形状モデルは『悪魔伝の七騎士』より「銃剣戦線」・『コクピット・レジェンド』1より「振動100』中の棍棒を参考にし、突起の本数や全体のバランスを詰めていく。ただ内部にマラカスを仕込む都合上、頭と柄の部分のラインを原作風に絞りこめなかった。
 なぜマラカス仕様なのかというと第一に形状からくる連想(使えるアイテムへの嗜好)、使用キャスト量の軽減、なにより無垢のまま作ってしまったら見た目通りの武器になってしまう事への懸念からである。
 おおまかなラインが決まった後、イラストボードに断面図を引き、これをくり抜いて確認用スケールを作る。だが未使用。マラカス球という格好の基準スケールがあったのでこれを中心に均等な厚みを実測できたのである。
2007.10.21〜11.2
 原型製作開始。手順はガス生命体グラス作った時と同じくファンド粘土を紐状にしての巻き巻き組み。マラカスの柄の部分は切り取り、割り箸を心棒にしている。巻き巻きの場合、接合が不十分だと水分が抜けた後収縮してクラックが出てしまう。乾燥しては埋め乾燥しては埋めでベースを作る(写真で線上にみえる部分はゼリー状瞬着)。
 大誤算だったのは粘土の使用量。3袋ほど使い、原典に近づける段階でマラカス球と粘土の厚みをどんどん薄くしていったら半分で済んだ。実に無駄な時間と労力を浪費し部屋を汚してしまった。前検討はしっかりやるべきである。
粘土のばし この状態では小学生の粘土遊びと変わらない
粘土巻き マラカス内蔵のため分割して作る
粘土整形 乾燥〜縮小のため、巻き部分に縞状のクラックが出た
 トゲなしではタダのマラカス原型。いかに突起パーツがビジュアルの華であるかお判りいただけよう。松本メーターと同じく、この突起意匠も使用者にはたちどころにパクリの烙印が押される独創性に満ちた松本様式のエレメントである。
 ちなみに中に仕込むのは「MAXTONE」という800円のマラカス。澄んだ音色とにぎやかすぎる音量がどれほど反映されるかは現時点では不明。カラオケでアニソン歌う時に使ってもらうのが最も真価を発揮するだろう。まぁ手首の疲労ももれなくついてくるのは保証します。
2007.11.3〜11.4 トゲ付け
突起接合  トゲは合計21本。大きさも間隔もランダムにかつ全体から見るとバランス良くを理想に感じたままくっつける。グラスの時よりイージー。接着剤が水なのはファンド粘土のエコな利点。
そして複製前夜へ
 12月中旬まで磨いて削ってで原型完成。実作業の半分以上はぜい肉削りに費やされたのが実に残念。作る際のポイントで解説するような部分はなし。単純な連続作業でワンフェス参加のキップが得られるという事実は、書き残すに値する事柄かもしれない。
 これまで自分が立体化してきたものを振り返ると棘や丸いものに惹かれる傾向が判る。10代のビジュアルインパクトに優るものナシの伝でいくと、自分は富野の子供たちではなく松本の遺伝子(by島本和彦)を多く受け継いでいるのだなと思わずにはいられない。最後にこの棍棒が出てくるのもうなづける。たとえ単にネタ切れだったんでしょうと事実を指摘されても…… 次回はもう完成篇。ワンフェス後の更新確実なれど、春の訪れと共に事の顛末を待たれよ。
(2008.1.25記)
 原型は出来たものの、ゴム型はガス生命体グラスと同じく要多分割成型と判っているため次のステップに進むのがとても億劫な棍棒の製作。間に松本メーターの複製もあり、完成はWF直前まで押してしまう。いつもの事といえばそれまでだが、トゲアイテムは手間のかかる鬼っ子的存在なのだった。
ヘッド&ボディ分割
 製作はヘッドパーツ複製時にマラカス球を埋め込み(2枚目の写真のように上半分を硬化前のキャストに漬け込み、そのまま接合)、ボディパーツ複製時にヘッド+マラカス球を上から被せてそのまま接合するという強引な計画。棍棒という大ざっぱな形状のみが許す荒技である。
 原型の準備ができたあと松本メーターの複製に入ったため、結局ゴム型の製作は年明けから始める。12月15日にパッケージのアイデアを書き残したくらいで、後はほっぽらかした格好になる。複製というのはかくも腰が重くなるのである。
構成パーツ 粘土原型+マラカス球(上下共07年12月2日(日)撮影)
構成図解 露出状態のマラカスはうるさいほど音が響く
08年1月17日(木)
 メーターの複製も終わり、いよいよゴム型の製作に入る。最初にヘッド部分を粘土に埋めマラカス球部分のゴム型を取る。→マラカス球部分のゴム型を土台に、突起と突起の間の稜線を分割線にしてシリコーンゴムを順番に流し、ゴム型を分けて作る。平日作業のため3回の注型で7ピースの分割型取るのに3日。そこから始め、9セット分のヘッドパーツ複製が終わったのは1月27日。
 28日にボディ原型へ版権表記用の印刷樹脂板を貼り込み、ヘッドパーツと同じ要領で分割ゴム型をとる。日記確認するとゴム型完成まで6日かかり、上下パーツ合体に移れたのは2月になってからだった。
ヘッドパーツ型取 トゲ部分のゴム型製作写真は取り損ねた。申し訳ない
ヘッドパーツ全景 とてもカラフルなヘッドパーツ。9セットで机が占領される
仕上げ〜塗装〜完成へ
強引合体 ボディパーツ硬化時にヘッドパーツをかぶせ結合させた状態
 2月3日(日)に上下パーツの結合が終わり、無理やり合体によるすき間へのキャスト流しとバリ取りやすりがけが終わったのが2月11日(月)そこからサフ吹き〜本塗装〜トップコートのコーティングで全行程終了したのが2月20日(水)。マスキングなしの単純吹きつけでなければ完全にタイムオーバー。表面はラフに仕上げるため40/60番のサンドペーパーがけで済ませたのも時間節約に貢献した。手抜きとラフのグレーゾーン……仕上げに関しては棍棒という対象で良かった良かった。
複製完了 ボディパーツ硬化時にヘッドパーツをかぶせ結合させた状態
塗装完了 ボディパーツ硬化時にヘッドパーツをかぶせ結合させた状態
棍棒完成
 こうして松本式突起型棍棒は完成、無事ワンフェスでの出展を果たすことができた。トゲの有無が製作に及ぼす手間と時間は中年デブオタにとってキツイものだったが、それだけ松本零士独特のモチーフが個性的であるという証明。原作のペンタッチが描くうねりやねじれの表現は技術的に不可能で、シルエットの類似がせいぜいだった。当ディーラーの技術ではこれが精一杯。
 手に取った時、本作が原作世界との交流を喚起する触媒となるかは原型製作者にも保証しかねる。好意的に見て松本様式への造形的興味を呼ぶ在野の活動があった……くらいの位置が妥当であろう。
 当ディーラーにおける松本零士テイストへのアプローチはこれでネタ切れ。だが一介のアマディーラーに掘り尽くせるほど松本様式の鉱脈は浅くない。松本作品の何処に魅力を感じ、立体に起こすモチベーションが発生するかは原型師の数だけ存在する。
 言うまでもないがワンダーフェスティバルの名は伊達ではない。自分の死角を突く作品と出会う可能性が非常に大きい場所なのだ。(2008.4.10記)
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